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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
2006年の法律改正で国の庁舎の民間への貸出しが可能になり、富士山測候所も対象になった
経費だけでなく、安全面での問題もあって、夏期の2カ月間しか観測できない
通年観測の測定結果は、マウナ・ロアと比較できる良質なデータ
科学的な視点をもち安全が確保されてさえいれば、富士山を活用するどのような提案も歓迎
【10】自由対流圏
 地球の大気の鉛直構造の最下層が対流圏であり、対流圏の中でも地面との摩擦や地形の影響を受ける大気境界層より上で、これらの影響から自由な「自由大気」から成る部分を指す。中緯度の平地や海洋の場合、約1キロメートルから11キロメートルまでの高度が自由対流圏に相当し、大気の総重量の70〜80%を占め、物質輸送や大気化学反応の起きる場として重要である。
【11】アメダス
 自動気象データ収集システムの略称。日本国内に約1300ある気象観測所で構成される、気象庁の無人観測施設の総称で、最も一般的に観測されているのが気温と降水量、ついで風向・風速と日照時間である。
【12】海洋研究開発機構(JAMSTEC)
 国立研究開発法人の1つで、海洋に関する基盤的研究開発、海洋に関する学術研究の協力推進等の業務を行い、海洋科学の技術向上を図るとともに、学術研究の発展に資することを目的とする。
【13】向井人史(むかい ひとし)
 現在、国立環境研究所地球環境研究センター長。大気中の温室効果ガスの動態などを研究する。
【14】山岳を観測地点とする大気観測(ACPM)
 ACPMの正式名称は、Atmospheric Chemistry and Physics at Mountain Sitesであり、本年、御殿場で開催予定の第3回集会は、ACPM2017とよばれている。

No.068

Issued: 2017.08.21

第68回 認定NPO法人富士山測候所を活用する会の土器屋由紀子理事が語る、富士山で大気観測をする意義[2]

実施日時:平成29年7月26日(水)15:15〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

2006年の法律改正で国の庁舎の民間への貸出しが可能になり、富士山測候所も対象になった

大塚― 気象学はもちろん重要ですが、地球規模での環境問題の重要性が増すにつれ大気化学の重要性も増していますよね。
ところで、大気化学の立場から富士山が優れている点をご紹介ください。

土器屋さん― 富士山が日本の真ん中に位置し、かつ独立峰ということです。そのため、地球表面の影響を受ける大気境界層よりはるかに上で、人間活動の影響もほとんど受けない自由対流圏【10】に位置しているのです。おまけに、かなり離れたところに山小屋があるくらいで、人為的な物質の発生源もほとんどなく、これ以上はない優れた観測ポイントです。

大塚― レーダードームが2001年に撤去された後、どのようなことが起きたのですか。

土器屋さん― 測候所を所有する気象庁は、予算がつかない施設を維持することはできず、しかも過去に4人も殉職者を出していることもあり、2004年に無人化(非常駐化)を決定しました。富士山頂は雷が頻繁に起きるので。無人化すると人の手で切り替えられないため電源を完全に切ることになります。気象庁が、アメダス基地【11】としてバッテリーをつかって続けている気象観測を別にすれば、通常の観測はできません。
ところが、2006年に法律改正により国の庁舎の民間への貸出しが可能になり、富士山測候所もその対象になったことから、その借り受け団体になることを目指しました。私たちは、それまでの「富士山高所科学研究会」を「特定非営利活動法人(NPO法人)富士山測候所を活用する会」に組織替えしました。2005年11月のことでした。
NPO法人として研究(教育を含む)目的以外には使わない、一切の電源費用を支払うなどの条件で、最初の2回は3年契約、3回目から5年契約で借用し測定を続けています。

大塚― 大変なご苦労をされているわけですね。

経費だけでなく、安全面での問題もあって、夏期の2カ月間しか観測できない

NPO法人富士山測候所を活用する会の年間運営経費4000万円の内訳
NPO法人富士山測候所を活用する会の年間運営経費4000万円の内訳 ※拡大図はこちら

土器屋さん― 一番大変なのは、お金を集めることかもしれません。現在行っている夏の観測を行うだけでも、年間に約4000万円かかります。公的な資金援助はありませんので、会費と寄付、それから応募して採択された助成金で賄っています。最初の5年間は、海洋研究開発機構【12】との共同研究が大きな支えになりました。その後は、民間の三井物産の環境基金や新技術振興渡辺記念会に応募し、助成金をいただくことで維持しています。

大塚― 研究面で苦労されていることもご紹介ください。

土器屋さん― 最大の問題は、夏期の2カ月間しか観測できないことです。経費だけでなく、安全面での問題もあるからです。そのような中で、私たちと一緒に研究を続けてきた国立環境研究所の向井人史【13】さんたちのグループが、バッテリーで動く省エネ型の装置の開発に成功しました。2009年から、16キログラムのバッテリー100個を山頂に持ち上げ、その装置で通年観測をしています。

大塚― それほど重いものを人力で持ち上げているのですか。

土器屋さん― ブルドーザでギリギリのところまで運び、そこから先は人力で運び上げます。山男たちも随分頑張ってくれています。気圧の低い場所での重労働であり、夏でも気温が零下になり凍死者がでたこともあるほどなので、安全第一でやっています。ともかく、通年観測が可能になったのです。
2カ月間の夏期の観測を行うにも、いろいろな配慮が必要です。たとえば、研究者も皆が皆、高山環境に強いわけではなく、1/3くらいの方が高山病に罹ります。さまざまなことに対処するため、開所期間中は山男たち3名が常時駐在するようにしています。


通年観測の測定結果は、マウナ・ロアと比較できる良質なデータ

大塚― 通年観測の研究成果についてお願いします。

土器屋さん― 何と言っても、地球温暖化に深く関係する大気中の二酸化炭素濃度の通年観測ができるようになったことです。夏期には、2カ月という短い期間ですが多くの項目を測り、同時にバッテリーの充電をします。一方、冬期には1日に1回だけ測るようにしていますが、この測定結果は、ハワイのマウナ・ロアと比較できる良質なデータであり、とくに中緯度の自由対流圏での貴重な測定データとして世界で高く評価されています。
ほかにも多くの観測がなされているのですが(研究の例を下の4枚の図に示します)、大気化学以外の分野の一例として、NPO法人が測候所を利用するようになって始まったものに雷の観測があります。富士山測候所では、雷が鳴ると電源を切らなければならず迷惑に感じていたのですが、東京学芸大学を中心とする研究グループが雷の測定をはじめたのです。雷がガンマ線を出すことに着目し、宇宙線と大気電波の観測を進めています。夏の雷雲は地上4キロメートル以上も高いところにあり、地上からは測れず、富士山頂だからこそ測れるのです。

早稲田大学・大河内博教授グループによる「霧水・降水・エアロゾルの化学研究」-1 ハイボリウムエアサンプラー(2017年7月15日)
早稲田大学・大河内博教授グループによる「霧水・降水・エアロゾルの化学研究」-1 ハイボリウムエアサンプラー(2017年7月15日)

早稲田大学・大河内博教授グループによる「霧水・降水・エアロゾルの化学研究」-2 雲水採取装置(2015年8月19日)撮影:稲垣純也
早稲田大学・大河内博教授グループによる「霧水・降水・エアロゾルの化学研究」-2 雲水採取装置(2015年8月19日)撮影:稲垣純也

東京理科大学・三浦和彦教授グループによる「エアロゾルの物理研究」ナノ粒子測定装置(2017年7月20日)
東京理科大学・三浦和彦教授グループによる「エアロゾルの物理研究」ナノ粒子測定装置(2017年7月20日)

東京学芸大学・鴨川仁准教授グループによる「雷の研究」高高感度カメラ(2013年7月19日)
東京学芸大学・鴨川仁准教授グループによる「雷の研究」
高高感度カメラ(2013年7月19日)


大塚― 多くの成果もあげておられますが、土器屋さんが今目指しておられるのは何でしょうか。

土器屋さん― 通年観測を拡充することです。省エネで通年測れる項目を増やすことを、今年の目標にしています。具体的には、超小型でソーラーパネルを窓越しに置くだけでも可能な観測システムを作ろうと考えています。
とくに成功させたいのは、二酸化硫黄の通年測定です。富士山は火山ですし、二酸化硫黄濃度が急に上がることがありますが、現在のところ、浅間山の影響か富士山自身の影響か分かっていません。この解決に必要なのは、バッテリーで通年観測をできるような省エネルギーシステムの開発にかかっており、現在改良している最中です。

大塚― ところで、今年はNPO法人としてイベントを企画されているのですね。

土器屋さん― NPO法人として山頂観測10周年を迎えますので、11月に、山を観測地点として使う大気化学・物理の研究者が集まる国際集会「山岳を観測地点とする大気観測(ACPM)」【14】の第3回目を、私たちNPOの活動拠点である静岡県の御殿場で開催する予定です。
ACPMは、1回目をスイスのインターラーケンで、2回目をアメリカ・コロラド州のスティームボートスプリングスで行っており、今度が3回目になります。地球環境を理解する上での山の役割を重視し、そのネットワークつくりに力を入れ、世界で高く評価されていますが、残念ながら、アジア地域ではこの認識が遅れています。

大塚― 是非、実り多い集会にしていただきたいと思います。

科学的な視点をもち安全が確保されてさえいれば、富士山を活用するどのような提案も歓迎

大塚― 最後になりますが、EICネットは多くの方々にご覧いただいています。土器屋さんから、読者の皆さまにあてたメッセージをお願いいたします。

土器屋さん― NPO法人富士山測候所を活用する会の活動を続けていて、本当に感じるのは「富士山はとても面白い」ことです。もちろん私自身を含め、多くのメンバーは大気化学の観測や宇宙線の観測などをしておりますが、私も最近は教材作りを手伝う機会もあり、芸術などのさまざまな分野の方々と接することが増えています。その中で、富士山頂の価値を改めて強く感じています。
私たちのNPO法人も、富士山を使おうとお考えの方々から多様な提案をいただき、その中からいくつかのテーマを選びサポートさせていただいています。このエコチャレンジャーを読まれた皆さまの中にも、富士山を使ってみたいと思われる方は是非ご提案ください。私たちのNPOは、科学的な視点をもち安全が確保されてさえいれば、どのような提案も歓迎いたします。
しかし、一方で、10年で建物や電源の劣化が進んでいて、今後そのメンテナンスに経費が多くかかりそうです。気象庁には予算がないので、私たちのNPOがやらなければならず今後ますます負担が大きくなると思われ、財政的な先行きは明るくないのです。
最後になりますが、私たちの活動をご支援くださった多くの皆さまに感謝するとともに、これからもご理解とご支援をいただければ幸いです。

大塚― 本日は、富士山測候所における気象観測と大気化学の観測について、研究の意義、その歴史、そして今後の展望までお話しいただきました。土器屋さんには、これからもますますご活躍いただきたいと思います。ありがとうございました。

認定NPO法人富士山測候所を活用する会・理事の土器屋由紀子さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。
認定NPO法人富士山測候所を活用する会・理事の土器屋由紀子さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。


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