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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
自然の現象として、気象には揺らぎがあるのが本来の性質
気象の揺らぎの中で、平均値からプラスあるいはマイナスに大きく外れる“異常気象”が時々起きることは異常ではない
複雑で大量のデータ処理が必要な検証ができるようになったのは、コンピュータの性能が格段に上がったことによる
【1】1/f揺らぎ
 スペクトル密度が周波数fに反比例する揺らぎのことで、fは0より大きい有限な範囲をとる。ピンクノイズとも呼ばれ、自然現象でしばしばみられる。
【2】ハイエイタス(Hiatus)
 米国大気研究センターが、全球的な平均気温の上昇率が横ばいあるいは低下傾向になる状態を指すために、2011年ころから用い始めた。具体的には、地上の平均気温が1880年から2012年に0.85℃上昇したものの、今世紀に入ってからは、二酸化炭素濃度が1年あたり2.1ppm上昇したにもかかわらず、気温が10年あたり0.03℃の上昇に止まっている現象。
【3】イベントアトリビューション(Event Attribution)
 異常気候のような極端現象は、人為的な影響の有無にかかわらず気候システムの中で自然に生じ得るため、原因を特定のイベントに帰すことはできないが、イベントの発生確率は外力の変化によって変動すると予測されるので、人為的な強制によるイベントの発生確率の変化の程度を評価する分析法。

No.060

Issued: 2016.12.20

第60回 東京大学大気海洋研究所・木本昌秀教授に聞く、異常気象のメカニズム、そして地球温暖化との関係[1]

実施日時:平成28年11月22日(火)14:30〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

自然の現象として、気象には揺らぎがあるのが本来の性質

木本 昌秀(きもと まさひで)さん
木本 昌秀(きもと まさひで)さん
東京大学大気海洋研究所 副所長・教授
気候システム研究系系長
さまざまな時間スケールの気候変動を理解し、予測することを目標に研究を行っている。
複雑多様な気候変動現象を理解し、ひいては予測するために、それらを再現できる数値気候モデルの開発が重要であると考えており、多くの研究者と協力して世界トップレベルの大気海洋結合気候モデルの開発を進めている。

大塚理事長(以下、大塚)― エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。
木本さんは、気象庁気象研究所研究官を経て、現在は東京大学大気海洋研究所教授として気象学の研究と次世代の研究者の育成に携わっておられます。また、気象庁の異常気象分析検討会会長、環境省の中央環境審議会気候変動影響評価等小委員会専門委員などとして活躍されておられます。本日は、最近大きな関心を集めている異常気象について、そのメカニズムや地球温暖化との関係などを含め、お話を伺いたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
今日は、日本古来の季節感を表す二十四節季(気)で、少量とはいえ雨が雪になって降る小雪(しょうせつ)にあたりますが、それほど寒くありません。それに、東京では霜柱がほとんど見られなくなるなど、この数十年間に温暖になったと感じるのですが、気象学の立場からはいかがでしょうか。

木本さん―  最初に確認しておきたいのは、皆さんがご存じのとおり、天気は毎日変わります。雨が降る日もありますし、暖かい日も涼しい日もあります。また、夏の天気をとっても、少し暑い夏も少し涼しい夏もあります。自然の現象として、とくに大気の通り道が決まっていないために、気象には揺らぎがあるのです。扇風機の風の「1/f揺らぎ」【1】は、自然の揺らぎに近いもので、心地よさを感じさせます。それが気象本来の性質です。
ところが、数十年とか百年近い長期の気象データを調べますと、日本だけでなく、地球が温暖化していることが分かってきました。年によって寒さ・暖かさも少しずつ違うのですが、ならしてみると徐々に暖かくなっているのです。その原因が、人間活動に伴う温室効果気体の排出によることが、科学的に明らかになってきたのです。
一般の方々が、霜が降りる日が少なくなったと感じるような温暖化現象の多くは、気象学の研究で科学的に証明されています。ただし大都市では、温室効果気体による地球温暖化の影響と、アスファルトやビルが増えたことによる都市化の影響の両方が重なっています。東京の場合、年平均気温が100年間で大体3℃くらい上がったのですが、そのうちの1℃が温暖化の影響、残りの2℃が都市化の影響といえます。

大塚― 数十年という長い時間の中で、傾向を判断されるのですね。

木本さん― そうです。10年や20年、あるいは30年くらいですと、そのくらいの期間で気候に周期性のあることが最近分かってきました。1つの例をあげましょう。先ほど地球温暖化が進行中と申しましたが、細かく見ると、21世紀に入ってから気温上昇のペースが鈍っているのです。このことは、英語で停留を意味するハイエイタス【2】と呼ばれています。ところが、多くの研究の結果、ハイエイタスは自然界における数十年という周期的な気候変動の反映だったのです。その証拠に、海の表面の水温は上昇せずに停まっていたものの、深い海の水温は上昇を続けていたのです。ほかにも、北極の氷の変化や熱波の頻度の変化などから、温暖化は間違いなく進行しています。近々、世界気象機関から発表される今年の世界の平均気温も史上3位くらいに高くなりそうで、ハイエイタスはそろそろ終わったとみられます。

日本の大都市の気温、日本の平均気温、及び日本周辺海域の海面水温の推移。日本の平均気温は国内17 地点の平均。いずれも年平均値で、1901〜1930 年の30年平均値からの偏差を示す。(作成:気象庁;文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響」(2009)より)
日本の大都市の気温、日本の平均気温、及び日本周辺海域の海面水温の推移。日本の平均気温は国内17 地点の平均。いずれも年平均値で、1901〜1930 年の30年平均値からの偏差を示す。(作成:気象庁;文部科学省・気象庁・環境省「日本の気候変動とその影響」(2009)より)


気象の揺らぎの中で、平均値からプラスあるいはマイナスに大きく外れる“異常気象”が時々起きることは異常ではない

大塚― ところで、異常気象という言葉が広く使われるようになってきましたが、ご専門の立場からはどのように捉えられていますか。

木本さん― 異常気象という言葉は、気象学者はあまり使いたくありませんでした。たとえば低頻度現象のように、頻繁には起きない珍しい現象という呼び方をしたかったのですが、そのような言葉ではインパクトがないこともあり、マスコミの方などが好む異常気象を使うようになったのです。
しかし大事なのは、異常気象といっても、正常か異常かいう意味での異常を指していないことです。地球温暖化があってもなくても、都市化があってもなくても、気象は揺らぐのです。揺らぎの中で、平均値からプラスあるいはマイナスに大きく外れること、すなわち異常気象が時々起きることは異常ではないのです。

大塚― 言葉の意味をちゃんと理解しないといけないですね。

木本さん― とはいえ、気象庁も異常気象の定義つくりを進め、大体30回に1回以下、30分の1以下の頻度で起きる現象を指すことにしています。30年に1回は起きるともいえます。そうすると、世界中にはもちろん30以上の地域がありますから、毎年のようにどこかで異常気象が起きてもいいわけです。
実際に問題になるのは、普通の状態ではなく地球温暖化などの影響が加わった場合でしょう。猛暑を例にとれば、普通の状態では30年に1回しか起きなかったような猛暑が、温暖化が進むにつれて、20年に1回、あるいは10年に1回の頻度で起きること、あるいは雨の場合にも、平均値から大きく外れる大雨の頻度が増えることが顕在化してきたといえます。

アメダス地点で日降水量が400mm以上となった年間の回数(1,000地点あたりの回数に換算)。青い折れ線は5年移動平均、赤い直線は信頼度90%以上の変化傾向を示す。(気象庁「異常気象レポート2014」)
アメダス地点で日降水量が400mm以上となった年間の回数(1,000地点あたりの回数に換算)。青い折れ線は5年移動平均、赤い直線は信頼度90%以上の変化傾向を示す。(気象庁「異常気象レポート2014」)


大塚― 長期的にみた場合に、頻度が多くなっているということですね。

木本さん― そのとおりです。熱中症の患者さんが多く出る猛暑が起きたり、大雪が降ると、私のところに「温暖化のせいですか」と問い合わせがよくきたりします。温暖化とは数十年の長期傾向を指しているので、一回一回の猛暑や大雪の原因が温暖化というのはおかしいのです。一回一回の猛暑や大雪の原因は、その時その時の気圧配置、あるいはエルニーニョの状況によるのです。
とはいえ、温暖化の長期傾向の影響がないわけではないのですよ。私たちは、温暖化の影響を定量的に表す研究を進めています。異常気候の頻度や強さの変化に、温暖化などの要因が何%くらい寄与するかを明らかにするために、イベントアトリビューション【3】という方法を用いています。

複雑で大量のデータ処理が必要な検証ができるようになったのは、コンピュータの性能が格段に上がったことによる

大塚― イベントアトリビューションについて、基本的な考え方だけでもご説明いただけますか。

木本さん― 今述べた猛暑とか大雪というイベントに、それぞれの要因がどのくらい寄与したかを検証するのです。もちろん、温暖化は検証する要因の1つです。検証のポイントは、猛暑や大雪というイベントは自然の気候システムの中でも起きるので、その時の発生確率を求めておき、温暖化のような要因が加わった時のイベントの発生確率を求め、比較するのです。そのためには、数多くのサンプルが必要です。もし30サンプルしかなければ、30回に1回以下しか起きないイベントに、影響があったかどうか分かるはずもありません。同じ条件で100回のサンプル、条件を変えてまた100回のサンプルというように、何度も計算する必要があります。このように複雑で大量のデータ処理が必要な検証ができるようになったのは、コンピュータの性能が格段に上がったことによります。

2013年日本の猛暑のイベントアトリビューション。横軸は7-8月の日本の平均気温平年偏差、縦軸は確率密度(〜相対頻度)。赤線は、2013年条件の数値モデル実験で推定した確率密度分布。青線は2013年条件から温暖化分を差し引いた実験での分布、緑線は長期間(過去33年)の分布のモデル再現値。温暖化は2013年に観測される以上の猛暑の発生頻度を増加させる(青と赤の陰影を比較)。(Imada et al. (2014) Bull. Amer. Meteor. Soc. にもとづく)
2013年日本の猛暑のイベントアトリビューション。横軸は7-8月の日本の平均気温平年偏差、縦軸は確率密度(〜相対頻度)。赤線は、2013年条件の数値モデル実験で推定した確率密度分布。青線は2013年条件から温暖化分を差し引いた実験での分布、緑線は長期間(過去33年)の分布のモデル再現値。温暖化は2013年に観測される以上の猛暑の発生頻度を増加させる(青と赤の陰影を比較)。(Imada et al. (2014) Bull. Amer. Meteor. Soc. にもとづく)


大塚― 私たちがテレビなどでよく耳にする、偏西風やエルニーニョと異常気象との因果関係も、このようにして推測されているのですか。

木本さん― 日本の上空には季節を問わず偏西風が吹いており、その南側は暖かく北側が冷たくなっています。偏西風が蛇行すると通常は冷たいところが暖かくなるとか、暖かいところが冷たくなるので異常気象の多くは偏西風の蛇行と関係しています。蛇行が大きくなる、また長続きする原因が問題なのです。
偏西風の蛇行が長く続く大きな原因の一つに、エルニーニョ現象があります。エルニーニョとは、ご存知のように、太平洋の赤道域の日付変更線付近から南米沿岸にかけて、海面の水温が高くなる現象で、海水温の上昇は1年くらい継続します。この海水温の変化が、熱帯の雲の活動を変え、広い範囲で大気の流れや気圧配置が変わるのです。
エルニーニョの影響は大きいですが、ほかにもいろいろな現象が知られており、気象要因の因果関係が十分解明されているかというと、まだまだ多くの問題が残されています。

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