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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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エコチャレンジャー

環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
COPがはじまった1990年代にも、その背後に存在した最も大きな問題は南北問題だった
気候変動のようにむずかしい問題について、衆人監視の下でたった2週間で決着をつけるのは無理
気候変動の問題が南北問題よりも深刻だという理解が浸透し、また新たなチャンスをもたらすという認識が増えてきた
【1】IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
  研究者が各国の政府を代表する資格で参加し、気候変動のリスク、影響および対策について議論する公式の場として、国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)の共催により1988年11月に設置された。具体的には、地球温暖化に関する科学的な知見の評価、温暖化の環境的・社会経済的影響の評価、今後の対策のあり方の3課題について検討することを目的とする。
【2】エクソンモービル社(Exxon Mobil Corporation)
 アメリカ合衆国テキサス州に本社を置く、総合エネルギー企業。国際石油資本であり、スーパーメジャーと呼ばれる6社のうちの1つ。民間石油会社としては世界最大の規模になる。

No.051

Issued: 2016.03.18

第51回 元・気候変動担当大使の西村六善さんに聞く、気候変動問題の解決に向けた方法論と今後の国際的な動向[1]

実施日時:平成28年2月22日(月)14:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

COPがはじまった1990年代にも、その背後に存在した最も大きな問題は南北問題だった

西村 六善(にしむら・むつよし)
西村 六善(にしむら・むつよし)さん
外務省で条約局協定課長、報道課長、官房総務課長を経て、在シカゴ総領事、欧亜局長、経済協力開発機構(OECD)駐在特命全権大使。2005年地球環境問題担当特命全権大使、2006年気候変動担当政府代表兼地球環境問題担当特命全権大使、2007年内閣官房参与(地球温暖化問題担当)を歴任。

大塚理事長(以下、大塚)―  エコチャレンジャーにお出ましいただきありがとうございます。西村さんは、外務省欧亜局長、経済協力開発機構(OECD)担当大使、気候変動担当大使、そして内閣官房参謀(地球環境問題担当)を務められるなど、一貫して気候変動と地球環境問題に携わってこられました。現在は、公益財団法人日本国際問題研究所の客員研究員をされておられます。
 昨年末にパリ郊外で開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、世界の気候変動に関する法的枠組みである「パリ協定」が採択されました。本日は、気候変動をめぐる国際的な議論に長年かかわってこられた西村さんに、パリ協定の意義や今後の世界および日本の動向などについてお考えを伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。
 パリ協定が採択されたことについてお伺いする前に、COPをはじめとする気候変動の国際会議の動向、まずは2009年にコペンハーゲンで開かれたCOP15のころまでの状況について伺いたいと思います。

西村さん―  非常に端的に申しますと、気候変動にかんする議論の根っこには南北問題があったのです。途上国の貧困と南北間の格差の議論がとくに大きかったのは1960年代ですが、COPがはじまった1990年代にも、その背後に存在した最も大きな問題は南北問題だったのです。当時の議論を振り返りますと、南北問題の中に科学が割り込んできたというような感じでした。しかし、科学にも力があったとはいえ、その頃は多くの関係者は科学の云い分を深刻に認識するより、南北問題をどうするかに強い関心を寄せていたのです。
 言い換えますと、南北格差の解消を目指す正義意識が途上国には強く、科学の力はそれに太刀打ちできるほど強くなかったのです。一方で、先進国がバラバラだったという感じも強くもっています。先進国の基本的な発想は、貧困の理由や貧困がもたらす問題を理解していないわけではないのですが、自国も成長しなければならず、途上国の主張をすべて聞くわけにはいかないというものでした。そうなると、分断支配のような感じになり、途上国側の主張を一部では聞き一部では聞かないというスタンスになるわけで、科学の成果もそのために利用されていたとも言えますね。

気候変動のようにむずかしい問題について、衆人監視の下でたった2週間で決着をつけるのは無理

大塚―  科学の側からみると、社会的な問題への介入の経験というか蓄積が少なかったのではないですか。

西村さん―  そうですね。その点は科学にとっては大きなチャレンジだったと思います。もちろん、科学は病気を治す、病原菌を探すなど、大きな成果をあげ人類社会に貢献してきました。しかし、地球温暖化あるいは気候変動という巨大な問題に対して、成果を世界に突きつけるには準備不足だったように感じます。たとえば、IPCC【1】が1988年に設立され世界中から著名な科学者たちが集まり協働しはじめましたが、それでもやはり科学は地球環境問題に対しては揺籃期であり、南北間の公平性を追及する途上国の力ほど強くなかったのです。
 このような状況がつづき、2009年にコペンハーゲンで開かれたCOP15もその流れの中にあったのですが、状況が変化しはじめたのも確かです。科学がかなり強くなってきましたし、オバマ大統領のような指導者が出てきて、先進国の足並みもそろいはじめ頑張ろうという前向きなダイナミズムも出てきたのです。しかし、結局のところコペンハーゲンが成功しなかったのは、方法論にも問題があったと感じています。

大塚―  その方法論というのは、科学にかかわる側面ですか、政策論にかかわる側面ですか。

西村さん―  その頃よく指摘されたポイントですが、合意に達するための方法ですね。COPの180もの国から1万人近くの関係者が集まり、一堂に会して2週間にわたり議論するのです。このことが方法論として適していないと思うのです。気候変動のようにむずかしい問題について、衆人監視の下でたった2週間で決着をつけるのは無理なのです。
 より適切な方法を説明しようと思いますが、理解していただきやすいように敢えて参考までに具体例をあげますと、イギリスのブレア前首相のような世界的な有力者に下準備をして貰うのです。このような世界的な人物に国連事務総長の代理として世界中を回り、各国の総理大臣などの主要人物に会い、きちんとした議論をして貰うのです。勿論優秀なスタッフがついて、議論をすぐ整理して文書にまとめていくのです。このような準備作業は本当は必要だと思い、当時、国連側にも提案しましたが実現しませんでした。

大塚―  西村さんの気候変動大使時代のご苦労が想像されます。

西村さん―  COPにかかわった約180か国の政府代表は、私を含めてすべて、なんとかしようと思っているのですが、180の国益を調整するのは非常に困難でした。

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(COP)の主な流れ。 国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(COP)の主な流れ。


気候変動の問題が南北問題よりも深刻だという理解が浸透し、また新たなチャンスをもたらすという認識が増えてきた

大塚―  今回のCOP21では、議長を務めたフランスの外務大臣であるローラン・ファビウス氏の活躍が大きかったといわれますね。

西村さん―  そうですね。フランスは、交渉に練達の外交官を多数動員し、ファビウス大臣の下で、COPの会期中に事項ごとに問題ごとに、あるいはグループごとに、各国の代表団をなだめたりすかしたり、相当のことをしました。
 内容として重要だったことも2つあったと思います。1つは、気候変動の問題が南北問題よりも深刻だという理解が浸透したことです。もう1つは、気候変動問題は新たなチャンスをもたらすという認識が増えてきたことです。以前は、再生可能エネルギーといっても具体性に乏しかったわけです。仮に科学が正しいとすると、温室効果ガスの排出を削減しなければならない、そうすると経済に負担をかけなければならないと、一直線的な結論になっており、この一直線的な発想が長年つづいてきたのです。
 しかし端的に言って、近年再生可能エネルギーがものすごく安くなったのです。つまり新しいチャンスが生まれてきたのだから、途上国の側でも南北問題に固執して先進国の責任云々を主張するよりも、早く再生可能エネルギーで自分たち自身が脱炭素を実現する方が得だという発想になってきたのです。

COP21会場の様子(© UNclimatechange)。
COP21会場の様子(© UNclimatechange)。


大塚―  西村さんが以前から主張されている、化石燃料文明の終焉ですね。

西村さん―  何度も言いますけれども、南北問題、貧富の格差は先進国の歴史的な大量の化石燃料の燃焼の結果だから、途上国も同様に化石燃料を十分に燃焼できるようになってこそ格差は是正されると云うのが途上国の基本的な思想でした。しかし、安価な再生可能エネルギーの到来により、化石燃料を追求しなくても生活水準の向上を図ることは可能だと云う時代になったのです。
 先進国も化石燃料ではなく再生可能エネルギーによってエネルギー転換を図った方が、あらゆる意味において正しい文明の選択だと云う理解が急速に主流化しました。今回のパリ協定は、このような新しい文明的な認識を反映しています。化石燃料文明は時間と共に終焉を迎えると云うことを世界に示したと思います。
 温暖化の影響を研究してきた科学者は、最終的に役割を果たしたと思います。もちろん、世界には温暖化への懐疑主義に立つ政治家や産業界の人たちもおり、彼らは温暖化は「嘘っぱちだ」と論じています。例えば、世界最大の民間石油資本である米国のエクソン社【2】などは、化石燃料が温暖化を引き起こすとの説に反対しつづけています。しかし、世界人口の大半は、科学者が主張していることを聞いて心配し始めたのです。なお、最近はエクソン社も随分考え方を変えてきました。

大塚―  ヨーロッパの企業のほうが大きく変わっているようですね。また、日本の状況はいかがでしょう。

西村さん―  ヨーロッパはまさにそのとおりです。日本は、全体としてみるとアメリカの産業界や保守派の発想に近いところがあります。しかし、日本でも今度のパリ協定への評価は高く、たとえば環境省はパリ協定に基づく政策づくりに取り組もうとしていると思います。

パリ協定(環境省提供)。
パリ協定(環境省提供)。

パリ協定の採択(環境省提供)。前列左から、オランド・フランス大統領、ファビウス・フランス外相、パン・ギムン国連事務総長。
パリ協定の採択(環境省提供)。前列左から、オランド・フランス大統領、ファビウス・フランス外相、パン・ギムン国連事務総長。



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