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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

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環境問題にチャレンジするトップリーダーの方々との、ホットな話題についてのインタビューコーナーです。

目次
海運業界とともに条約や国際的な取り決めの策定を進める
条約の発効は大きな前進
環境を守るお金をみんなで受け入れることを考えてみてほしい
【15】UV照射
化学物質処理と並ぶ主なバラスト水処理方法。UVランプを使って、UVCと呼ばれる波長200〜280mmの紫外線を発生させ、これをバラスト水に直接照射して、殺菌・生物の不活性化をする。装置が単純で薬剤などを一切使用しないことなどから、バラスト水管理条約が適応される船舶の半数以上が採用している。
【16】IOPP(International Oil Pollution Prevention Certificate) (国際海水汚濁防止証書)
マルポール条約に基づき発給される。船舶が油の排出防止に関する規則に従って検査を受け、条約に定める要件に適合していることを証明するもの。国際航海する総トン数150トン以上のタンカー及び国際航海する総トン数400トン以上のタンカー以外の船舶が対象。

No.072

Issued: 2017.12.20

第72回 東京大学名誉教授・福代康夫さんに聞く、海洋における有毒有害生物の移動に伴う生態系への影響やバラスト水規制[2]

実施日時:平成29年11月20日(木)15:00〜
聞き手:一般財団法人環境イノベーション情報機構 理事長 大塚柳太郎

海運業界とともに条約や国際的な取り決めの策定を進める

大塚― 産業界への影響もIMOを中心とする条約作りの後押しになっていると聞いています。国際条約や国際的な取り決めの策定過程について、お話いただけますか。

福代さん― IMOにはバラスト水管理条約策定以前には生物を対象にした条約を作った経験がありません。立場によって主張がまったく異なるし、海運業界はまったく受け身の立場で、自分たちが加害者ではあるけれども、どうしたらよいのかわかりませんでした。
バラスト水には、コレラのような病原菌からワカメのような海藻、赤潮を起こすような単細胞の藻類、魚の卵など多種多様な生物が含まれます。バラストの取水口には、ゴミが入らないようにだいたい1センチくらいの目の網が張ってあるのですが、1センチより小さいものは入り込みます。時には、網を通るほど小さかったカニがバラストタンクの中で成長することもありうるわけです。総合的に防ぐには、どうしたら良いか、IMOにいた時に海運関係の方からずいぶん聞かれました。

大塚― 1センチとかはかなり大きいですね。対応策はどのように話し合われたのでしょうか。

福代さん― 2002年頃までは、船で電力が限られている中で効率良くろ過をするということでコンセンサスが得られていました。今、条約では10ミクロン以上の生物が殺滅対象になっていますが、ろ過でそれより大きいものを殺せば良いのではないかというコンセンサスが一時期できました。それから、もう1つ、通常の海運のオペレーションは変えないというのが大原則でした。バラスト水処理をするために、一日長く停泊することは考えられないと、海運関係者から要望されたのです。

大塚― それは世界共通ですか。

福代さん― 世界共通です。例えば、ノンバラスト船というアイディアが日本にありました。ノンバラスト船とは、バラスト水を持たないのではなく、いつでもずっと持っているタイプの船で、安定を良くするために船の横幅が今より広がります。ところが、港にある荷積み、荷卸しのクレーンは現在の船の幅で設計してあるから、幅の広い船では施設を変えなければ利用できません。これではダメなんですね。
そんな中で、突然10ミクロン以下のバクテリアの話が出てきたわけです。2002年頃だったろうと思います。コレラ菌がアメリカのアラバマ州の港から中米に運ばれたという事例です。コレラ菌も処理対象、殺滅対象にしなければいけないとブラジルが言い出し、コレラが蔓延した中南米の国はこぞって賛成したのです。それまで、ろ過だけを考えていた処理法の前提が崩れてしまったのです。それで、条約で規定する処理方法に化学処理、またはUV照射【15】が必須となりました。

条約の発効は大きな前進

バラストタンク内の生物調査
バラストタンク内の生物調査

大塚― 薬剤が出てきたのはこの時が初めてですか。

福代さん― いえ、薬剤使用の案は議論の開始時からあり、ビタミンKなどかなりいろいろなものが提案されていました。ただ、薬剤使用の問題は2点あります。1点目は値段です。2点目は、国際航路の船が入るすべての港で薬剤を補充する準備が整っていなければならず、もしそうでなければ補充できる港に迂回しなければないことです。これは先ほどお話した海運のしきたりを変えることになりますから、薬剤単独は無理だろうということで、その他の方法(UV照射)も併せて検討されました。

大塚― バラスト水の管理条約では、具体的な処理方法も取り決めたのですか。

福代さん― 処理方法自体は、物理処理や化学処理など開発に携わる人が得意な方法を考えることであるとして、IMOが具体的方法を示したことはありません。ただ、処理後にバラスト水に含まれている生物量の基準を決め、それ以下になる方法であればどのような方法でもいいということになっています。すなわち、処理後に排出するバラスト水の中に存在しても良い生物量に制限をかけたことです。過去に環境に影響を与えていたと思われる生物の卵や稚仔の大きさと考えられる0.05ミリメートル以上の大きさの生物は、バラスト水1トン中に10個体未満とされており、これはとても厳しい数字です。頭の中で、一辺1メートルの立体を考えていただき、その中に芥子粒程度の大きさの生物が10個体以上あってはいけない、という基準ですので、それを守ることと、守られていることを検証することがとても大変な基準です。
また、条約で決まっている基準はもう1つあります。それは上記の基準を満たす装置を搭載するまでに守るべき暫定基準ですが、沿岸から200海里以上離れたところ、該当する海域が航路上に無ければ50海里以上離れた、水深が200メートル以上の海域で、搭載しているバラスト水の95%以上を交換できれば、処理をしたと認めるという取り決めです。バラスト水を取水する港湾にいる生物は、沿岸から遠く離れたところ、深いところでは生きられない、という考え方です。
条約がすでに発効したわけですが、それ以降の取り決めとして、すべての船は2019年以降に受けるIOPP【16】検査までに装置を搭載しなければならないことになっています。この検査は車でいう車検みたいなものですが、今から2年後の9月8日から始まる5年間に受ける検査の時には装置の搭載完了を確認されるわけです。ですので、2024年9月以降には国際航路に従事するすべての船舶に装置が搭載され、バラスト水による生物移動はなくなるといえるわけです。

大塚― 発効したバラスト水管理条約は、ベストとは言えないまでもベターであり、水生生物の移動にブレーキがかかったと言ってよいですね。

福代さん― 間違いなく、装置を載せればバラスト水で生物が移動することは極力抑えられると胸を張って言えるでしょう。それまではまったく対策が取られてこなかったので、大きな前進です。バラスト水管理条約では、水だけが対象ではなくタンク内の沈殿物もできるだけ除去することも決まっています。タンクの底に溜まっている泥の中にいる生物も、ろ過することによってかなり除けます。

環境を守るお金をみんなで受け入れることを考えてみてほしい

大塚― 最後になりますが、国際的に進んできたバラスト水の問題に、これだけはぜひ言っておきたいということをお伺いできればと思います。

福代さん―  1つは、生物撹乱というのは海運、海事で起こるだけではなくて、日本の場合、水産活動によって起こることが多いという事実です。もう1つ申し上げたいのは、生物が分布を広げようというのは、生物そのものがもつ自然の力とも言えるものです。たとえば、地球温暖化で熱帯系の生物がどんどん北上してきている可能性があるとしたら、その原因を生物種ごとに突き詰め、対策を立てていかないといけないと思います。 ところで、バラスト水の場合は、処理装置そのものが1台につき1億円とか2億円もします。それから運転費用も1回につき200万〜500万円といわれています。また、バラスト水交換も1回につき200万円と言われています。そのお金をどうするのかについて、冗談で話したことがあります。簡単に言えば、船会社はそのためにかかった値段を荷物に転嫁すればいい、荷主は物の値段に転嫁すればいい、という話になるわけです。そうすると、一番最後にツケを払うのは物を買う人、私たちですね。言い換えると、環境を守るのに必要なお金として、私たち皆が受け入れなければいけないわけですよ。環境を守るとはどういうことなのか、考えてみていただければと思います。

大塚― バラスト水を巡るさまざまな話題について、分かり易くお話しいただきました。本日は、どうもありがとうございました。

東京大学名誉教授の福代康夫さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。
東京大学名誉教授の福代康夫さん(左)と、一般財団法人環境イノベーション情報機構理事長の大塚柳太郎(右)。


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